2020.10.18

断趾術を行う目的を考える

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乳牛の健康管理においてフットケアは、最も重要なものです。特にフリーストールで飼育される牛では。
このフットケアも年々進化し、今では私たち獣医師だけではなく農場スタッフも積極的に削蹄・治療にかかわるようになり
跛行を発見したらその対応までのスパンも早まってきました。理想とする姿、跛行発見から治療までを24時間以内することが近づいて来ているように日々感じています

しかしながら、そのようなフットケアの改善が進んでも蹄内部に感染が広がる”蹄深部感染症”が稀に発生します
この蹄病に罹った場合、通常の治療では根治が難しく重度な痛みを常に伴い、最終的には全く足をつけなくなってしまう

蹄深部感染症と診断された場合、治療するかしないかの判断が必要です
根治治療を望まない場合は、残念ながら早期に淘汰(屠場へ)することが痛みを伴う牛にとって最良な判断と考えます
根治治療を望む場合、感染した趾端を切断する”断趾術”を行うことを私たちは選択します
その理由は手術によって病変を完全に切除することで痛みを除き、その後の生産性の回復が期待できるからです

今年3例の断趾術を行い、そのうち先月実施した牛の経過を紹介します

患畜データ:2産、分娩後87日、右後肢の強い跛行
初診:蹄底潰瘍が初発病変で、そこから蹄深部に感染が拡大。著しい跛行、蹄尖の異常な状屈、蹄球の重度な腫脹。蹄ブロックをつけ、抗生剤の全身投与を開始
2診目:症状改善なし。断趾術を希望される
3診目:断趾術
4診目:術後4日目、ガーゼ交換、抗生剤使用を中止
5診目:術後7日目、創面の抜糸、終診とする

経過における泌乳成績は下の通りでした(ロボット搾乳のため日乳量データが残っていた)
三澤断趾術牛2655の泌乳成績

断趾術の最大のメリットは急激な泌乳の回復にあり、それは痛みが消失したことによります
手術後、
・授精・妊娠し、分娩を繰り返すことができた牛
・泌乳期間を全うできた牛
・妊娠を維持して正常出産でき、その後も泌乳期間を得た
することを目的としてこの手術を望まれます。もし泌乳量が少なく空胎で、健康状態も厳しい場合はすぐに淘汰されることのが多い

理想はこうした蹄深部感染症に罹る牛が年間1頭も出ないこと
そのために日々のフットケアの重要性を皆さんと議論し続けます

北海道紋別郡湧別町芭露450-3

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