2025.01.21

牛の高病原性鳥インフルエンザの最新情報

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皆様

こんにちは、大澤です

本日は、2024年8月にアクセプトされたJDS Communications®より Zelmar Rodriguez et.al Epidemiological and clinical aspects of highly pathogenic avian influenza H5N1 in dairy cattle(乳牛における高病原性鳥インフルエンザH5N1
の疫学的および臨床的側面)の中から最新の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)に関する情報をお伝えします。

私が読んで感じた要点をお伝えします。

この牛のHPAIは人にも感染するリスクがあり、ワンヘルス的考え方必要だと筆者がまとめていました。(ワンヘルスとは「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」を一つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方)

では、実際どのようなことが現場で起こっているのでしょうか。

現場で行われている対策は、移動の制限とバルクスクリーニングによる摘発がおこなわれています。

また、感染牛は症状を示すもの(主に乳量の減少、異常乳)と無症状のものに分けられます。

無症状の個体で今回、乳中にもウイルスを含んでおり、排出されるウイルス量は症状のある個体より多いというデータがでました。また、感染時期によっては、ウイルスの排出がない時期(潜伏期)があり、検査でも発見できない場合があり、実際、牛が移動させてしまうケースもありました。表からも、症例数は増えている(=摘発できている)ように感じます。

表:2024年3月25日から8月13日までに、米国(左)および高罹患州(右:コロラド州、アイダホ州、ミシガン州、テキサス州)の酪農牛群の週ごとに報告されたHPAI H5N1の累積確認症例(陽性牛群)アメリカ全体で症例数は増えており、コロラド州でも症例頭数が増えていたことがわかります

感染牛に特徴はあるのでしょうか。

APHIS (2024b) の調査によると、「臨床徴候を示した牛の割合は、初産牛で 4%、第 2 産牛で 7%、第 3 産牛以上で 9%であった。さらに、乾乳牛の 5% に臨床徴候が見られたが、離乳前および泌乳していない未経産牛では臨床徴候は検出されなかった。」と報告がありました。また、1歳齢で感染実験(n=4)では口腔咽頭、眼球、唾液のぬぐい液からウイルスRNAが検出された報告があり、一過性の鼻汁が唯一見られた臨床症状でした。

いま、アメリカで検査対象となる牛は臨床症状の有無によって検査が行われており、対象から漏れている牛がいるのかな感じました。

表:防疫対策の3本の柱(文書より図へ)

感染症の予防対策ではこの3つの要素が基本となるようです

これから、もし北海道に牛HPAIが入ってきてたら、身近に野生動物が多いため、感染リスクが高いのではと感じています。日本の周辺国では、様々な伝染病が流行しています(アフリカ豚熱、口蹄疫など)。

農場の防疫対策について考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

2025.01.21

高病原性鳥インフルエンザ 最新情報2025年1月

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ゆうべつ牛群管理サービスの大澤です。

最新の高病原性鳥インフルエンザについて紹介します。

発生状況:アメリカ16州 915牛群で発生が確認されており、カリフォルニア州では「H5N1型鳥インフルエンザへの対応として乳牛および家禽の展示会を新たに禁止」という発表がありました(Bovine Veterinarian 2025.1.9より)(上:アメリカでの各州の牛群で確認されたHPAI発生状況(色が濃いほど発生が多い) 下:現在確認されている野鳥、家禽、搾乳牛群でのHPAI発生状況と確認された州・管轄の数)

ヒトでの発生も確認されており、66人の感染が確認されており、うち1名がなくなっています(基礎疾患あり、高齢)。HPAIウイルスはヒトへの病原性は低く、一般のヒトへの感染リスクは低いとされています。しかし、ヒトへの感染機会が増えることにより、ヒトへの感染性が高くなる変異を起こすことが懸念されています。(表:ヒトのHPAI感染要因まとめた表、搾乳牛群との接触による感染が40名、家禽との接触による感染が23名)

また、検査の流れが一部変わりました。

酪農生産者が牛群を登録することで毎週のバルク乳検査を行い、3週連続で陰性であった場合、追加検査なしで群れは監視対象の無影響群れのステータスを受け取ります。連邦命令で現在義務付けられている個々の動物の移動事前追加検査なしで、動物を州間で移動させることができます。(登録してない牛群は今までと同じ)

5段階の戦略には以下の流れになってます。
第1段階 – 全国的な集乳をモニタリングし、病気の発生地域を特定し、傾向を監視し、州が感染の可能性がある牛群を特定するのを支援する
第2段階 – 州と協力してバルク乳のサンプリングプログラムを立ち上げ、H5に感染している牛群を特定し、感染していない状態を証明
第3段階 – H5が検出された州において、特定の事例を特定し、強化されたバイオセキュリティ、移動制限、接触追跡調査を含む迅速な対応策を実施
第4段階 – 未感染州におけるバルク乳の継続的なH5存在しないことを証明
第5段階 – 定期的なサンプリングと検査を実施し、全国的な牛群から長期的にH5が存在しないことを証明

という流れになっています(表 USDAより、プログラムのステージごとの内容が記載)。

ワクチンに関する最新情報も確認しました。

フェレットでHPAIのmRNAワクチンの接種実験をしたところ、ウイルスの排出量の減少と体重減少が低減されたというデータが出ました。ワクチンの実用化され、感染がコントロールされればと思いました。

最後に、日本のHPAIは家禽、野鳥での発生報告があります。また、HPAIに関するカリフォルニア州の獣医師の報告によると、「現在の健康と管理の問題を増幅させる」と話しています。牛群を健康に管理することと、防疫管理が発生予防と重症化させないうえで重要になっていくのかと考えています。

参考資料

  • Epidemiological and clinical aspects of highly pathogenic avian influenza H5N1 in dairy cattle
  • USDAサイトホームより
  • CDCサイトホームより
  • NIDより

2024.12.11

サシバエに問題ついて その2

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改善策

ここからは実際に改善していくための方法について話していきます。最も始めやすく、重要となるのが衛生管理です。他にも科学薬品や粘着テープ、仕掛け罠、防虫ネット、飼料添加物を用いる方法があります。

衛生管理

衛生の管理をすることで75%のハエを予防することができます。そのためには、まず湿っている、腐敗した飼料等の有機物を除去する。また、幼虫の発生している箇所を見つけることも重要です。発見次第、除去し乾燥しているような状態にしましょう。少なくとも、週に一度のペースで清掃を行えると良いです。

また、農場周辺の成虫が休むことのできる草の影をなくすために雑草の除去が必要です。

糞便の管理については、堆肥化させることで熱を発生させ繁殖させない。また、幼虫は40~60%の水分を含む環境に生息しますので、ラグーンに沈めることで水の膜を作り繁殖を防止します。

化学物質

スプレーを散布することで成虫を殺すことができます。また、耳タグや“ダストバッグ”が効果的です。ハエによっては耐性を持つものもいますので、農場毎に効果的な薬剤を選択していきましょう。

↑ダストバッグの例

粘着テープ、仕掛け罠

テープや仕掛け餌により予防している農場は多いと思います。これらは、成虫に対して有効です。粒上の餌は濡れない場所、粘着テープは空気の流れが無く地面から1メートルの高さに設置するなど、正しい方法で用いましょう。

飼料添加物

添加物により、糞便に繁殖する幼虫に対処することができます。しかし糞便以外の繁殖場所、成虫の移動もサシバエの増加の経路があります。

サシバエに対する対処方法は一つではありません。成虫、幼虫ともに対策をしていく必要があります。

最後に

サシバエの牛群に対する影響は大きなものです。対策のためには、観察が必要です。牛の行動やハエの分布、環境などを観察し、一つずつ増加の要因を減らしていくことが必要です。そのために、今回挙げた対策を参考にしてみてください。

2024.12.11

サシバエの問題について その1

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サシバエによりフロリダでは年間3600万ドル、アメリカ全土で7億~10億ドルの損害があると言われています。日本の酪農家においても問題となっています。

サシバエによる問題としては、吸血によりストレスや感染病を伝播し、ストレスや採食の妨げ、牛群の密集により乳量が低下し、大量に発生すると貧血に陥る可能性もあります。

 

サシバエとは?

雌雄ともに吸血を行い、雌は10~14日で卵から産卵が行えるようになり、通常10分以内の新鮮な糞便に産卵。幼虫は糞尿の中で生存します。冬は蛹の状態で過ごします。また、一匹当たり20回の吸血を一日に行い、一回に付き1.5mgの血液を吸血することが分かっており、さらに、フィラリアや黄色ブドウ球菌、BLVなどを媒介するといわれています。

 

↑吸血するための口の形状が特徴

 

サシバエの好む環境

子牛や牛の餌場、飼料貯蔵庫、糞尿、湿った寝藁、サイレージなどの水分の多い飼料、またコンクリート上の糞便等の湿って動かない場所を好みます。また、成虫は草の影で休みます。

 

モニタリング方法

サシバエはどのくらいの数から問題となるのでしょうか?現在、乳牛では、一頭当たり100匹以上、肉牛では、200匹以上から生産活動に影響を与えるといわれています。
実際に農場にはどの程度のハエがいるのでしょうか。調べる方法は以下のようになります。
まずは、休んでいる牛を見つけ片側にいるハエの数をカウントしましょう。

1:A,B,Cのどれかに25~50匹

2:AとB、BとC のどちらかに100~125匹

3:A,B,Cを合わせて200から350匹

4:A,B,C合わせて500匹以上

片側に50匹以上が基準となりますので無作為に10頭程選びカウントしてみてください。

また、牛が集まり行動している、皮膚をなめる、ピクピクしている、尻尾を振る、急に走り出す等の行動も基準になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024.11.29

子牛のIgG測定③~第二四半期顧客全体評価~

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皆さま

新人の大澤です。

前回に引き続き、2024年第二四半期の子牛のIgGの測定結果を報告していきたいと思います。

今回は、2024年7月からの9月(第二四半期)の顧客全体の評価についてお届けします。
3か月で134頭の子牛のIgGを評価しました。

下記に示したグラフは全体:2024年4月~9月、①:同年4月~6月(第一四半期)、②:同年7月~9月(第二四半期)について示しています。第二四半期の弊社顧客全体の平均IgG値は27.1g/Lで最大値は64.6g/L、最小値は0.0g/l、中央値は25.0g/Lと推移しました。

第二四半期の成績が第一四半期より低下していた要因として夏場のヒートストレスが関与しているのではないかと考えています。

また、今回、品種別のIgGの結果も整理しましたが、ホルスタイン種、F1、和牛で、大きく分布が異なることはありませんでした。(表なし)

ここで、なぜ初乳の摂取が大事なのでしょうか?

子牛は生まれた当初、免疫機能はほとんどなく、初乳による移行抗体に依存しています。

移行抗体の成功メリットととして、

  • 子牛の疾病発生率の低下
  • 初産分娩月齢の低下
  • 増体率、初産・2産乳量の向上
  • 初産期の淘汰率の低下

などが挙げられます。

これらは疾病の発生が減少することで、発育に重要な時期に成長を促すための栄養素が節約されることに起因すると考えられます。

また、初乳の摂取の遅れ・制限は子牛の腸内細菌叢の多様性の低下をまねきます。結果とし、消化効率の低下は短鎖脂肪酸(SCFA)の産生を低下させ、腸管上皮のターンオーバーの遅延(バリア機能の低下)をまねきます。また、SCFAは免疫(B細胞、制御性T細胞)の誘導を促進しており、SCFAの産生低下は免疫系の発達を遅らせてしまうことが論文上で考察されていました。

これから寒くなります。初乳摂取による移行抗体の獲得を成功させ、子牛たちを元気に発育させましょう。

今後も、IgGの検査、疫学評価を行っていく中で、関連情報の発信をしていきたいです。

参考文献

Daily Science 2024 L. R. Cangiano et.al Developmental adaptations of immune function in calves and the influence of the intestinal microbiota in health and disease

2024.10.03

牛のバンチングとは?

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初投稿となります。今年より入社いたしました永井佑季です。今回自分は牛のバンチングと呼ばれる行動について書かせていただきます。

 

短い夏が終わり涼しい日々が続いておりますが、農家の方々は暑い夏の時期に牛が牛舎や放牧地で固まるように集まって行動している様子を見たことがあると思います。これは「バンチング」と呼ばれ、牛群を管理していく上で一つの問題です。スペースに無駄ができてしまい、過密によるストレス、飼槽へ向かう回数が減ってしまう等のことにより生産効率が下がってしまうことが考えられます。

 ↑牛が一か所に集まっている様子

なぜ牛は固まるように集まってしまうのか?

バンチングは様々なストレスが原因で起こります。以下に4種類のストレスとその特徴を挙げます。

1:暑熱ストレス

気温やTHI(温湿度指数)が上昇すると牛が集まる。気温が下がると牛が分散する。

2:光の回避

特に暑い日に日陰に集まっている。日没後には集まっていない。また日没後でも、照明のくらい場所で集まっている。

3:新鮮な空気の不足

空気がしっかりと換気されていない。空気の流れが良い場所に集まっている。

4:ハエによる問題

頭を中央に、尻尾を外側に向けて集まっている。ガッティング反応(尻尾を挙げて走る)行動を示す。スラリー、糞尿側に牛がいない。

ストレスを軽減するためには?

1:暑熱ストレス

ファンや水をかけるソーカ―等冷却のための設備を整えることで暑熱ストレスを軽減することができます。新たに取り付けるだけではなく、例えば汚れているファンは最大40%風量が損なわれることもあるので、清掃を行うことでも改善が図れます。

2:光の回避

牛舎内の日差しが入る側に以下のような遮光カーテンを付ける。また、人工照明を清掃することで均等に光が当たるようにする。光の回避は他の暑熱ストレスや換気不足によるストレスに対する反応です。他のストレス要因の改善と併用することでさらに効果が得られます。

↑遮光カーテンの例

3:新鮮な空気の不足

吸気、排気を調節し新鮮な空気が牛舎内に回るようにする。スモークを用いて空気が滞留している部分を確認し改善できるとより良いと思います。

4:ハエが気になる

ハエの個体数をコントロールするため、繁殖場所である濡れてしまい、腐敗した飼料の除去等、施設全体を清潔に保つ。また周辺の草木の駆除やハエの駆除を行うことも重要です。

最後に

以上のことから、牛の行動を観察し原因を考えた上で、適当な方法を用いていくことでバンチングが改善されていきます。上記した通りバンチングが起きているということは、何かしらのストレスを牛群として感じているというサインです。快適な環境を作ることでストレスを軽減し、より良い牛群管理を行っていきましょう!

北海道紋別郡湧別町芭露450-3

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